ホームForesight Journalコラム「AIの民主化」を成し遂げるMicrosoft Copilot

「AIの民主化」を成し遂げるMicrosoft Copilot

生成AIに振り回された1年が終ろうとしています。昨年の今頃は「生成AI」と言う言葉を聞いたことも無い人が大半だったことを考えると、今年はまさに激動の1年だったと言えるでしょう。そしてその生成AIの1年を先頭で折り返そうとしているのが、Microsoftです。

1年前のMicrosoftは、どちらかというとGoogleなどの後塵を拝しているイメージでしたが、2022年11月にChatGPTが公開されて大旋風を巻き起こした機を捉え、全戦略をAIに振り切りました。GoogleなどがAIの回答精度やプライバシー問題への対応に苦慮する中で、Microsoftは自社のサービスや製品に積極的にAIを取り入れてきたのです。
もちろん、Microsoftも回答精度やプライバシーへの配慮は行っていますが、今はそれらを一定程度回避できる分野で攻勢をかけているのです。それが、Microsoftの製品/サービスの活用をサポートする「Copilot」です。Copilotは元々2018年にソフトウェア開発支援のGitHub Copilotから始まったものですが、生成AIのブレイク後はMicrosoft製品/サービスのAIアシスタント全体を包括するブランド名となり、検索のBingやセキュリティ、Windowsの操作をサポートするCopilotなどが続々とリリースされました。

「サポート役に徹する」という絶妙なネーミング

Copilotは、Microsoft製品やサービスをより効率的・効果的に活用するための、AIによるアシスタントです。この、Copilot(副操縦士)というネーミングが絶妙で、「AIは将来的に人間を凌駕し、仕事が奪われる」という根強い懸念を払拭しようという意図が感じられます。人間を「置き換える」のではなく、サポート役、補佐役に徹するというニュアンスが込められているのでしょう。
そしてCopilotシリーズの大本命とも言えるのが、11月から日本でも限定的に利用可能になったCopilot for Microsoft 365です。(これまではMicrosoft 365 Copilotと呼称されていましたが、最近変ったようです)。ビジネスパーソンのほとんどが毎日使うOfficeソフトに常駐する形でAIが組み込まれることで、AIがかつて無いレベルでユーザーに近づくことが期待されます。

Copilot for Microsoft 365の動作イメージ

Copilot for Microsoft 365がどのように業務効率の向上に貢献するのかについて、いくつかの例をご紹介しましょう。まずは、プレゼンテーションです。

PowerPointでプレゼンテーションを作成する際、指定のテンプレートが無い場合は、デザインや文字の配置などから検討しなければなりません。今までならテンプレートギャラリーから選ぶことが多かったでしょうが、今後は画面の端で待機しているCopilotに「春めいた陽気な感じで」とか「ビジネス向けの重厚な感じ」などと伝えれば、適切な候補を示してくれます。気に入らなければ、「もう少し落ち着いた感じで」などと入力すれば、Copilotと対話しながらオリジナリティのあるデザインを作ることができます。コンテンツについても、タイトルや訴求点、聴衆などについて入力すれば、あっという間にたたき台を作成してくれます。

Excelは、今や多くの人のデスクワークに欠かせないツールとなっています。その中には、シンプルな計算を行うだけでなく、マクロやピボットテーブルを使って自身の業務を効率化している人もおられますが、「使ってみたいが自分で調べるのは面倒くさい」という人も多いのではないでしょうか。しかし、Copilotに「月次の売上データから商品毎に集計して」などと入力すれば、作り方を教えてくれるのではなく、自動でピボットテーブルを作ってくれるのです。これならば、誰もがその恩恵を受けることができます。ユーザーの生産性は上がり、そのためにIT部門がサポートする必要もありません。
あるいは、「過去1年間の売上データの推移から、主なトレンドを3つ挙げて」などと入力することで、ビジネスインテリジェンス的な使い方をすることもできるでしょう。ユーザーが何かを学ぶ必要はありません。すべてCopilotが「手伝って」くれるのです。

Excel上級者にとってもメリットはあります。Excelの膨大な関数をすべて覚えて使いこなせる人などこの世にいませんが、それこそAIの出番です。上級者でも思いつかなかった関数の使い方や、データの活用方法が見つかるかも知れません。

生成AIへの懸念を払拭しようとするMicrosoft

ではなぜ、Copilotシリーズは他のAIサービスで問題となっている回答精度やプライバシーへの懸念を回避できるのでしょうか。その秘密は、自社で製品やサービスを開発し、提供しているMicrosoftだからこそ可能なビジネスモデルにあります。
CopilotはMicrosoft製品の使い方を手伝うためのものですから、Copilotが学習すべきデータはMicrosoft製品のスペックや機能、ベストプラクティス等です。これらはすべてMicrosoftの社内にあり、他社の権利を侵害することはありません。そしてあたりまえですが、これらの学習データは「正確」であり、偏見や悪意、偏りを含んでいません。
ユーザーの操作履歴や持っているデータなどを学習させることもできますが、それは外部とは共有されません。このように、現在の生成AIで問題になっている、学習データの正確さやプライバシー、権利侵害への懸念は、Copilotでは基本的に回避できるのです。

しかしもちろん、CopilotのベースとなっているGPT4にはこれらの懸念があてはまりますし、今後規制が強化される可能性もあります。MicrosoftはCopilotの顧客が訴えられた場合には法的責任を肩代わりすることを表明しており、リスクをカバーすることでCopilotを推進しようとしています。

AIは「新しくて物珍しい技術」から「真に人を助ける技術」へ

ChatGPTは大きな反響を呼びましたが、最近では使わなくなってしまったという人も多いのではないでしょうか。それは、いちいち専用のサイトやアプリに質問を打ち込まなければならなかったり、回答の精度にいまひとつ信頼が置けないことなどが影響していたりするのかも知れません。
しかし、業務に必須のOfficeソフトにAIが常駐し、対話型で無制限にユーザーの相談相手になってくれ、学習データも正確で、回答も信頼でき、IT部門の負荷を増やさないとしたらどうでしょうか? これまでのヘルプとは次元の違うサポートが可能となり、生産性は上がるでしょう。

Copilot for Microsoft 365によって、「AIを呼び出して質問する」という形から「いつも隣に居るAIにお願いして手伝って(作って)もらう」形に変わります。最新のAIをユーザーの日常に自然な形で組み込み、多くの手間や単純作業を省略できるのです。AIと人間の距離はこれまでに無く近づき、AI活用のハードルの撤廃=AIの民主化が実現できるということでしょう。


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