ホームForesight Journalコラムプロンプトエンジニアリングは難しい? 管理職こそAIを使いこなすべき理由とは

プロンプトエンジニアリングは難しい? 管理職こそAIを使いこなすべき理由とは

テキスト生成AI「ChatGPT」や画像生成AI「Midjourney」といった生成AIを利用する際には、プロンプトを入力します。

「プロンプト」とは、生成AIに与えられるテキストや画像といった入力のことです。AIに何を生成させたいのかを指示するための指針で、AIに対してどのような情報を要求するのかを定義します。 生成AIが出力するコンテンツの内容やスタイルに大きな影響を与えるため、適切なプロンプトの設定が重要です。

例えば、「製品Aのマーケティング施策を考えて」というプロンプトでもChatGPTはターゲット市場の明確化、オンラインプレゼンスの構築、デジタル広告キャンペーン、インフルエンサーマーケティングなど、多数の施策を考えてくれます。

どれも間違ってはいません。しかし、生成AIは優等生的な回答をする傾向にあるので、包括的にふわっとした正解を出してくることが多いのです。ビジネスアクションを検討しようとしている場合は、もっと現状に即した壁打ちがしたいところです。そんな時に有効なのが、プロンプトエンジニアリングです。

プロンプトエンジニアリングとは

プロンプトエンジニアリングとは、生成AIに望ましい結果を出力させるために、最適なプロンプトを構築するテクニックの一つとなります。 指示を明確に書いたり、何度もトライ&エラーを繰り返して、望む出力を得る、というのもプロンプトエンジニアリングです。 このスキルを使って、最適なプロンプトを開発するのがプロンプトエンジニアです。

アメリカではいち早くプロンプトエンジニアの重要性が認識され、年収2000万円から5000万円というオファーが出されています。IT業界だけでなく、病院なども募集しています。日本でもプロンプトエンジニアの募集がたくさん出ており、「急募」案件も多数ありました。ただし、年収は海外と比べると低めです。

プロンプトは、命令、背景、入力、出力といった要素から構成されます。

命令は生成AIに出す指示のことで、必須の要素となります。「製品Aのマーケティング施策を考えて」であれば、「施策を考えて」の部分に当たります。

背景は背景情報や文脈のことです。例えば、「あなたは凄腕のマーケターです」というようにロール(役割)を指定したり、「高校生にもわかるように解説して」といった制約を入力します。

入力は回答を生成する時に参照するデータのことです。例えば、「自己紹介文を書いて」という命令に続き、データとして「名前は山田太郎」「趣味はグルメ」「仕事はライター」といった情報を記載するほどに、出力が最適化されます。

出力は「箇条書きにしてください」「3つ提案してください」というような出力形式を指定します。必須ではありませんが、望んだ回答を得るためには重要な要素です。

一般的に、英語で入出力するほうが精度は高まる傾向にあります。これはAIが学習するデータの多くを英語が占めているためです。また、長いプロンプトを入力する場合でも、AIは英文の構成の特長に沿って最初と最後をよく読む傾向にあります。 これらの癖を把握し、より適したプロンプトを作成するのもプロンプトエンジニアリングと言えます。

プロンプトエンジニアリングの代表的な手法

プロンプトエンジニアリングの手法はAI研究コミュニティ「DAIR.AI」がオープンソースで公開している「Prompt Engineering Guide」で解説されています。今回は代表的な手法をいくつか紹介します。

zero-shot prompting

プロンプト
以下のテキストの感情を中立、否定的、または肯定的に分類してください。
テキスト… AIを使いこなすことができません。

AI出力
否定的
事前に背景となる情報を提供せず、いきなり生成AIに指示を出し、判断させる手法です。しかし、きちんと感情分析の処理ができています。
zero-shot promptingがうまく動作しなかった場合は、次の手法を試します。

few-shot prompting

プロンプト
テキストの感情を色で分類すると以下のようになります。
美味しい…青  最高…青
ぼちぼち…黄色 眠い…黄色
まずい…赤   むかつく…赤

「楽しい」は何色になりますか?

AI出力
「楽しい」という感情はポジティブなものと考えられるので、この分類に基づくと「楽しい」は「青」になるでしょう。
普通に「楽しいって何色?」と聞くと、ピンクや緑などと回答してきますが、感情に色を当てはめたパターンを教えることで、その後の入力をAIが分類できるようになります。 ただし、複雑な推測が必要な情報だったり、一般常識とは異なる法則を教え込もうとするとうまく出力できないことがあります。

Chain-of-Thought Prompting

プロンプト
あなたは優れたインタビュアーです。電力会社の社長に一つだけ質問するなら何を聞きますか?ステップバイステップで考えて、質問を一つ教えてください。

AI出力
ステップ 1: 背景情報の確認
まず、電力会社の背後にある基本的な情報を把握しましょう。会社の規模、エネルギー供給源、地域へのサービス提供などを調査します。

ステップ 2: 目的の明確化


ステップ 3: 質問の検討


「再生可能エネルギーの割合を今後5年間でどれくらい増やす予定ですか?」
段階的に出力させることで、より複雑なタスクに対応させることができます。シンプルなプロンプトだと抽象的なふわっとした出力になりがちですが、ステップバイステップで考えさせることで、AIの考えが整理され、そのうえで質問を考えるのでクオリティが高まりやすいのです。

AIからより実用的な出力を引き出すには

例えば、「りんごを10個持っています。Aさんに2個あげて、Bさんに1個あげて、Cさんからは1個もらいました。今、りんごはいくつありますか?」といったプロンプトの場合、以前のAIは普通に入力すると間違うことが多かったのです。 そこで、ステップバイステップで考えさせることで、正解に導くことができました。

とは言え、ここ数か月でAIはさらに進化しており、ChatGPTなら指定しなくても勝手にステップバイステップで考え、正解を出せるようになっています。

もちろん、他にも多数のプロンプトエンジニアリングの手法が提唱されており、日々、新しいテクニックもお目見えしています。 AIの変化や進化のスピードは速いので、以前と同じように動作しなくなった手法もありますし、わざわざ指定しなくても自動的に適用されることもあります。

これからのプロンプトエンジニアリング

プロンプトエンジニアリングと仰々しく呼ばずとも、生成AIを活用するのであれば、プロンプトの工夫は欠かせません。最適なプロンプトを作成する、もしくはより良い回答を得るためにプロンプトをブラッシュアップするスキルは、最先端のIT技術者だけでなく、AIを使うユーザーであれば誰もが身につけておく必要があります。

プロンプトエンジニアリングはある種、人相手のコミュニケーションに近いものがあります。適切に指示を出せる上司は結果を出し、あやふやな命令をする上司はトラブルを起こします。

プロンプトエンジニアはAIと対話するコミュニケーション能力を持てばいいのです。 出力を評価し、動的にプロンプトを改善し続ける技術が求められます。 作業のプロセスを前半、中盤、後半と分けるなら、前半のプロンプトづくりと後半の分析、判断を人間が担当し、中盤をAIに任せるとスムーズにクオリティの高い成果物が得られます。

たった3分の1しかAIに任せられないのか、と思うかもしれませんが、もっとも時間と手間がかかる中盤部分を1分で済ませられるのは革命です。 何回やり直させても、24時間365日稼働させてもAIなら文句を言いません。 プロンプトエンジニアリングにより狙った出力を得られる人であれば、業務効率は数倍に向上するでしょう。

すでにAIはテキストも画像も一緒に扱えるようになっています。画像をアップロードし、何が写っているのかを質問することができるのです。マルチモーダルと言う技術で、ChatGPTやBardなどが搭載し、活用法が模索されています。今後は、マルチモーダルのプロンプトエンジニアリングの重要性も高まります。

管理職やベテランこそAIの活用を

管理職の方はここまで読んで、やっぱり難しそうだから、AI活用は若手に任せよう、と感じてしまうかもしれません。 実は、新人がAIを使っても大きな効果を出すことは難しいのです。前述のとおり、タスクを割り振るためには業務に関しての深い理解が必要です。 ベテランほどどんな出力が欲しいのかがわかっているので、適切なプロンプトを作りやすいのです。

そして、成果物の評価も同様です。ビジネス経験がないと、AIが出力した内容をジャッジできないのです。アメリカの弁護士が答弁書をChatGPTで作り、ファクトチェックをしないまま法廷に提出してトラブルを起こしたことがあります。

ベテランであれば、一目で成果物の変なところ、間違っているところ、ブラッシュアップすべきところがわかります。管理職やベテランほど、AIの活用にチャレンジして欲しいところです。ChatGPTであれば、操作も簡単です。

プロンプトエンジニアリングは高度なスキルですが、ビジネスパーソン全員にとって必要不可欠な能力と言えます。 必ずしもスキルを極めたプロンプトエンジニアになる必要はありません。F1レーサーのような特殊な専門的スキルを持つのは限られた人々ですが、普通免許や原付免許を取得しておくことは、仕事において有利な場面が多いのと似たようなものと言えるでしょう。

著者:ITライター柳谷智宣

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