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自己進化するAI アダプティブAIの重要性と活用領域

アダプティブAIシステム(Adaptive AI System)は、近年のAIの進化により注目を集めている技術のひとつです。その名前の通り適応性を持っているAIのことで、環境やタスクの変化に柔軟に対応し、学習と進化を通じて動作を継続的に改善、最適な結果を出力できるのが特徴です。

従来のAIは、特定のタスクやルールに従ってプログラムされ、それに基づいて作動するものが一般的でした。教師データを用意し、人間がラベルを付けて学習させ、AIがそれらをベースに予測するモデルです。そのため、フィードバックに基づく自己改善が難しいケースがあります。

アダプティブAIシステムは「教師なし学習」がベースになっています。ラベル付きのトレーニングデータを使用しないため、データから隠れたパターンや構造を発見するのが得意です。
似たような特徴を持つデータポイントをグループ化する「クラスタリング」や高次元のデータを低次元に変換してデータの可視性を高める「次元削減」、正常なデータから逸脱したパターンを身につけるモデルを構築する「異常検出」などを行います。

外部環境やデータの変化に対応し、自己適応的に振る舞うので、新しいデータが入力されたり、環境が変化したりした場合でも、システムが適切に対応できます。学習を継続し、新しい知識やパターンを獲得していくのです。

アダプティブAIシステムによりリアル社会の変化に適応することで、リアルタイムに、より優れたユーザーエクスペリエンスを提供できます。競争優位性を高めることができるのは明らかです。
2026年までに、アダプティブAIシステムを構築した企業は、競合他社を25%以上も上回るパフォーマンスを実現すると予想されています。

アダプティブAIシステムを活用したマンツーマンの教育

すでにアダプティブAIシステムは社会での活用が進んでいます。例えば、2019年、米空軍は基本軍事訓練(BMT)にアダプティブAIシステムを活用したテストを導入しました。

教師が講義するタイプの授業は大人数に対して効率的ですが、必ずしも個人個人に最適なカリキュラムになっているわけではありません。
そこで、アダプティブAIシステムにより、誰に何を教えたのか、いつテストを実施したかなど、進捗をAIが測定し、指導内容をそれぞれに応じて調整します。

ある問題が正解・不正解だった場合、手こずったかどうかは回答にかかった時間を計測すれば参考にできるかもしれません。しかし、悩んだかどうか、学習を楽しんでいる、集中しているかといった感情はかわりませんでした。

しかし、現在のシステムならノートPCやスマートフォンのカメラを利用し、顔認識システムにより感情を分析できます。その情報を元にアダプティブAIシステムが効果的な学習計画を立ててくれるのです。まさに、マンツーマンの家庭教師を付けているようなものですね。

社会に浸透し始めているアダプティブAIシステム

レコメンドシステムは小売業やコンテンツ配信業にとっては欠かせない機能となっています。最近検索した商品や過去に購入した商品に類似した商品がお勧めとして表示されるものです。皆さんも、Amazonやウォルマート、Spotify、Netflixなどのサービスで日々、便利に使っていることでしょう。

交通でもアダプティブAIは活躍しています。例えば、信号です。
渋滞を軽減するため、信号機の切り替わる間隔の調整が行われています。場所によっては時間帯によって、長さを変化させているところもあります。とは言っても、これは単なる自動化技術にすぎません。近隣で事故があり、突然交通量が変化したときには対応できないのです。

しかしアダプティブAIシステムを使うと、車を認識するカメラさえあれば、アダプティブAIシステムが判断し、インテリジェントに切り替えタイミングを調整できます。

ライドシェアのUberは需要に対して車が足りていない場合、アダプティブAIシステムがリアルタイムに価格を変更する「サージ・プライシング」を導入しています。

日本のタクシーが深夜・早朝料金として一律2割増しにしているのとはまったく異なるアプローチです。料金が高まることで、稼働するドライバーが増えることが期待できます。
数十分で解消することが多いので、ユーザーは料金が高くなるのが嫌であればキャンセルして待つこともできます。

もちろん、これから登場する自動運転でもアダプティブAIシステムが重要な要素となります。

アダプティブAIシステムによる医療のパーソナライズ化

医療やヘルスケア領域でもアダプティブAIシステムの役割に期待が集まっています。
アダプティブAIシステムは、蓄積された膨大な医療データからパターンを抽出し、疾患の早期診断と予測に役立ちます。糖尿病や心臓病のリスクを予測し、個々の患者に対して早期の治療やライフスタイルの変更を提案できます。
治療の際も、患者の遺伝子プロファイルや生活習慣、疾患の進行状況などを継続的にモニタリングし、パーソナライズ化された計画を立てることが可能です。

心拍数や血圧、血糖値などの異常をリアルタイムでモニタリングし、異常が検出された場合に、即警告を出し、迅速な対処が行えます。
X線やMRI、CTといった医療画像の解析も異常検知に強いアダプティブAIシステムにとっては得意分野です。例えば、がんの腫瘍検出や異常な組織などの解析も高精度に行えます。

また、生体反応をモニタリングすることで、投薬する薬の種類や量をリアルタイムに調整することができます。大人は1回2錠といったざっくりとした区切りではなく、薬物の副作用を最小限に抑えつつ治療効果を最大化できます。

金融・製造業でも活用が進む

金融業界は、常に変化し続ける市場環境や規制の動向に迅速に対応する必要があります。そのため、アダプティブAIシステムにより、リスク管理や顧客サービスの改善、法規制への対応、マーケットの分析などを行うことが求められています。

製造業界では、製造過程の効率化と品質向上、製造ラインの自動化、サプライチェーン管理などにアダプティブAIシステムが活用できます。製品設計段階においても、過去の製品や市場動向を分析し、より適した設計提案が行えます。

このように、様々な業界でアダプティブAIシステムが求められています。アダプティブAIシステムの導入はビジネスの根幹、そして従業員やパートナー企業に大きな影響を与えます。もっとも、業務プロセスのレベルで実装し、継続的な運用が必要になり、簡単に実現するものではありません。しかし、一部ではすでに活用され、大きな導入効果を実現しています。

アダプティブAIシステムの課題と未来

今後のビジネスには欠かせないアダプティブAIシステムですが、もちろん課題はあります。

まずは、AIの性能が学習するデータの品質に大きく依存するのです。不正確もしくは偏ったデータを元に学習すると、AIの出力も不正確になる可能性があります。
単なるノイズや偏りのあるデータが問題になるだけでなく、悪意のあるデータ操作やサイバー攻撃により、AIに間違った学習をさせるリスクもあります。

システムがとても複雑なので、出力を決定したプロセスがブラックボックス化しやすいのもネックです。ビジネスにおいて説明責任がある場合、大きな課題となるでしょう。今のところ、複雑な判断や倫理的な問題、法的な規制に対して完全に対応することはできていません。

システムは高いロバスト性(堅牢性)を持つ必要がありますが、アダプティブAIシステムはその性質上、これが大きな課題となります。未知の環境でも安定して動作する信頼性や最先端のセキュリティ対応が求められます。

また、アダプティブAIシステムの構築には莫大な計算リソースが必要になります。インフラの整備も含めて、コストが大きくなるのは仕方がありません。消費するエネルギーも莫大で、これからの企業は環境への影響も考える必要があります。

とは言え、アダプティブAIシステムはビジネスを自動化し、大幅な効率化を実現させます。パーソナライズ化により顧客満足度を向上させて、競争優位性を高め、場合によってはコスト削減も実現できます。

今後は、エネルギー効率の良いAIの開発が進み、環境への影響を最小限に抑える方向で進化するでしょう。そうなれば、異なる産業やセクター間でのコラボレーションが促進され、統合されたアダプティブAIのエコシステムが形成されます。そして、異なるAIがデータや知識を共有し、協力して課題を解決できるようになれば、新たなイノベーションが加速することでしょう。

著者:ITライター柳谷智宣

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