ホームM's Journalコラム結局、クラウドは安あがりなのか?

結局、クラウドは安あがりなのか?

結局、クラウドは安あがりなのか?

21世紀初頭に新しいコンピューティングスタイルとして注目を浴びたクラウドコンピューティングも、登場から既に15年が経過し、今ではあたりまえの選択肢になっています。クラウドが登場した頃は、その特徴を説明するために「電気・ガス・水道」のようにインフラを共有してコスト効率を向上させる、という比喩が用いられ、初期投資が必要なく、経費として処理でき、運用を外部化できるためにトータルでコストが抑えられるというのが謳い文句でした。しかし、15年が経過した今、「クラウドに移行したのに、結局トータルでの運用コストは変わらない。」といった話もよく耳にします。当初の主張は正しくなかったということなのでしょうか?

これはひとつには、クラウドが生まれた背景と日米のビジネス環境の違いによるものです。そしてもうひとつは、クラウドの価値はコストだけではない、という視点の違いです。順番にお話ししましょう。

日米のIT環境の違い

IPAが発表した「IT人材白書2017」(https://www.ipa.go.jp/files/000059086.pdf)のP.75でも触れられていますが、日米(というか、日本とそれ以外の先進国)ではIT人材が所属する企業の割合が大きく異なっています。日本ではIT人材の7割以上がIT企業(ベンダー)に所属しているのに対し、米国では35%、その他の国々でも4割前後となっています。

クラウドコンピューティングは、このような背景を持つ米国で生まれたものです。オンプレミスのシステムは社内のスタッフで運用されており、これをクラウドへ移行させることで運用負担を軽減できれば、社内のIT人材を削減することができ、大きなコスト削減が期待できます。これに対し日本では、ITシステムの運用はもともと社内で行っておらず、外部のIT企業に外注しているため、システムをクラウドへ移行させても社内のコストに大きく影響しません。さらに、クラウド移行後の運用も外注する場合にはコストはほとんど変わらないということになります。

クラウドの特長を活かしてコストを削減

各社のクラウドサービスのメニューを注意深く検討してみると、オンプレミスとまったく同じ構成の仮想マシン、メモリ、ハードディスクをクラウドで調達してそれを5年間使い続けると仮定した場合、トータルのコストはあまり変わらないか、むしろ高くなる場合もあります。しかし、だからといってクラウドにメリットが無いと考えるのは間違いです。

まず、最初からオンプレミスとまったく同じ構成のシステムを組む必要は無いと言うことです。オンプレミスであれば、将来必要になるであろう分まで含めて最初に調達する場合がありますが、クラウドでは必要になったときに必要な分を調達することができるため、最初から置いておく必要はありません。また、不要になればその時点で解約できます。これはオンプレミスでは不可能な運用であり、トータルで見れば確実にコストは削減できます。

また、クラウドの利用料金は、時間と共に下がって行きます。クラウドサービスが始まって以降、利用料金は下がり続けており、上がったことはありません。設定価格が同じでも、CPUの能力が上がったり単位当たりの容量が増えたりするため、実質的には値下げと言って良いでしょう。それを考えると、トータルではオンプレミスよりもコストは下がります。

クラウドにはコスト以外に大きなメリットがある

しかし、15年を経過して見えてきたのは、クラウドにはコスト以外に大きなメリットがあるということです。クラウドを有効に活用することで、圧倒的なビジネススピードを達成することができるのです。当初はオンプレミスのシステムをネットワーク越しにホストするためのIaaSが中心だったクラウドは、アプリケーションを提供するSaaS、そしてミドルウェアの機能を提供するPaaSへと進化を続けてきました。そしてPaaSは今や、さまざまなミドルウェア機能をサービスとして提供するマネージドサービスへと進化しました。

これにより、オンプレミスにハードウェアを置いて(またはIaaS上に)ミドルウェアを導入し、アプリケーションを開発してシステムを構築するのではなく、クラウド上に用意された各種サービスを組み合わせて迅速にシステムを構築することができるようになっています。ハードウェアやミドルウェアの導入にかかる時間が必要無く、システム開発の時間も大幅に短縮できるため、ビジネス環境の変化に応じて迅速にシステムを改変することができるようになり、ビジネススピードを上げることが可能になります。

今ではデータベースやコンテナ管理などの基本的な部分から、金融決済や外部サービスとの連携など、あらゆる処理がサービスとして提供されているため、1行もプログラムを書かなくとも業務システムを構築できる場合もあるほどです。プログラムを書かないのであれば、バグが生まれるリスクもテストの必要性もありませんから、迅速化だけでなくメンテナンスのためのコスト削減も実現できます。さらに、これらのクラウドサービスはベンダーによって最新の状態に維持され、最新の機能はすぐに利用可能になり、セキュリティパッチも漏れなく適用され、冗長化によりサービスが停止することもないため、自社で管理するよりも圧倒的に使いやすく安全です。

コストを下げるためのクラウドではなく、ビジネスを強化するためのクラウドへ

デジタルトランスフォーメーション(DX)の目標のひとつに、このビジネススピードの向上が含まれており、今や欧米ではコスト削減よりもこちらのメリットの方に注目が集まっています。クラウドはコストメリットを追求しつつも、DXを推進するためのプラットフォームとしての役割が期待されているということでしょう。

しかし、クラウドのメリットを最大限活かしてビジネススピードを上げるためには、DXを推進して社内を改革するためのコストや体制作り、そしてITベンダー側もクラウドに精通していかなければならないため、人材獲得や育成のコストまでを含めて考えると、大きなコスト増になる可能性があります。しかし、その目的はビジネススピードを上げ競争優位を勝ち取ることであり、ITシステムのコスト削減とはまったく別の問題と言って良いでしょう。クラウドはこのように大きな企業改革の枠組みに不可欠な存在となっており、コスト削減という視点からのみとらえる時代は、もはや終ったと言うこともできるのです。

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