ホームForesight Journalコラム誰もがアプリを開発できる時代は来るのか。ノーコード/ローコードプラットフォームの可能性。

誰もがアプリを開発できる時代は来るのか。ノーコード/ローコードプラットフォームの可能性。

デジタライゼーションを推進し、AIなどの新技術を活用しながらDXを実現するためにはIT人材の確保が重要です。近年のIT技術の進化により、IoTデバイスの急激な拡張、AIによるビッグデータの活用、PC・スマホの普及など、ますますITが活躍する領域が広がっています。

しかし、日本においては、少子高齢化等により労働人口の減少が予測されていることに加え、IT分野に関してはベンダーへの外部委託が一般的となっている日本固有の事情も重なり、社内のIT人材の大幅な不足が課題となっています。 2019年に経済産業省が発表した「IT 人材需給に関する調査」によると、このまま行けば2030年には最大79万人ものIT人材不足という状況に直面してしまいます。そこで、脚光を浴びているのが、ソースコードの詳細記述をすることなくプログラム等を構築できるノーコード/ローコードプラットフォームです。

ノーコード/ローコードプラットフォームを活用することで、ITリソースが限られた環境でもシステムを開発できるようになります。

とは言え、魔法の技術というわけでもなく、メリット/デメリットがあります。今回は、ノーコード/ローコードプラットフォームのメリットや導入時のポイントについて解説します。

急速に普及するノーコード/ローコードプラットフォーム

ノーコード/ローコードの「コード」とは「ソースコード」のことで、このコードをほとんど書かなくてもプログラムを作成できる開発環境のことを「ローコード」プラットフォーム、まったく書かなくてもプログラムを作成できる環境を「ノーコード」プラットフォームと呼びます。

IT人材不足が顕在化するなかでノーコード/ローコードプラットフォームの需要は急速に高まっていることは数字からも見てとれます。

独立系ITコンサルティング・調査会社の株式会社アイ・ティ・アールによる調査によると、国内のノーコード/ローコードプラットフォーム市場は右肩上がりに伸びており今後もその動きは加速すると予想されています。2020年度の売上金額は515億8000万円で、前年度比で24.3%増となっています。 2025年までは24.4%のCAGR(年平均成長率)で拡大し、2025年度の売上は1539億円にまで伸びると予想されています。

コードを書く量を抑えた「ローコードプラットフォーム」

ローコードプラットフォームは、コードの記述が極力少ない形でプログラム開発が可能です。プログラミングだけでなく、アプリの設計から完成後のテストまで行えるツールもあります。アプリを開発する場合は動作確認のためテスト工程が必要となりますが、実はこのテスト工程はとても手間がかかり、開発工数の3割前後を占めると言われています。しかしローコードプラットフォームであれば、パーツ同士の動作はすでに確認されているので、テストの工数が大幅に削減できるのです。

従来のスクラッチ開発だと、設計書や仕様書など様々なドキュメントを作成する必要があり、こちらも少なくない工数がかかります。ローコードプラットフォームであれば、データベースにすべての情報があるのでドキュメントがなくても仕様を把握できます。プラットフォームや案件によってはドキュメントが必須となるケースもありますが、ローコードプラットフォームなら自動的にドキュメントを作成することも難しくありません。

ただ、ローコードプラットフォームは、少ないとはいえコードを書くため、やはりプログラマーの素養を持つIT人材がユーザー層となります。そのため、導入のハードルはやや高く、SIerやITベンダーの支援を受けるところが多くなるでしょう。すでに、ローコードプラットフォーム関連のサービスを提供しているSIerやITベンダーも増えており、今後も広まって行くことでしょう。

SIerやITベンダーそのものも、開発する際にローコードプラットフォームを積極的に活用する流れになっています。圧倒的に効率的な開発が可能になるので、客単価は落ちてしまうかも知れませんが、それ以上に多数の案件を手がけることができます。

メジャーなローコードプラットフォームとしては、「Microsoft PowerApps」や「OutSystems」、「Salesforce Lightning Platform」、「HCL Notes/Domino」などがあります。

現場が自分たちで開発できる「ノーコードプラットフォーム」

ノーコードプラットフォームは、コードを一切書かなくてもマウス操作でプログラムを構築できるため、プログラマーでなくても開発できるのが特徴です。このことをプログラミングの民主化と呼んだり、ノーコードプラットフォームで開発を行う非エンジニアのことをシチズン・デベロッパーと言うこともあります。

ノーコードプラットフォームは、もちろんSIerが活用してもいいのですが、最も大きな効果を発揮するのが現場での開発です。従来のスクラッチ開発では、SIerとのコミュニケーションがうまくいかず、認識がずれたままプロジェクトが進んでしまい、成果物がまったく期待と違う、というトラブルが起きがちです。その点、ノーコードプラットフォームであれば、課題を抱えている現場の人たちが自分で開発できるので、ニーズと合致したシステムやアプリが実現可能です。

ツールの使い方さえ習得してしまえば、業務アプリでも短時間に作成できます。例えば、顧客リストなどのシンプルなアプリであれば、30分もあればできてしまうこともあるのです。不具合もしくは業務フローの変更で、アプリを修正したい場合でもノーコードプラットフォームであれば、その場で対応できてしまいます。

従来のようにSIerやITベンダーに依頼する場合、見積り依頼、予算検討、発注、開発、納品といった流れが必要となります。

コストもお金もかかるので、少々使いづらいくらいなら我慢するとか、Excelと併用して無理矢理運用するというケースもあります。しかし、業務効率の改善という観点で見れば、本末転倒です。ノーコードプラットフォームであれば修正が容易なためPDCAを高速に回せるのは大きなメリットと言えます。

メジャーなノーコードプラットフォームとしては、「kintone」や「WordPress」、「STUDIO」、「Forguncy」、「Glide」、「Click」、「Shopify」などがあります。

ノーコード/ローコードプラットフォームの注意すべきポイント

ノーコード/ローコードプラットフォームのメリットを列挙してきましたが、注意しなければいけないポイントもあります。

社内のITリソースに応じた選択が必要

ローコードプラットフォームの場合、内製化によるコストダウンを狙って導入したのに、あまりにも高機能すぎて使いこなせない、もしくはSIerに依頼しなければならなくなった、というケースをよく見かけます。うまく、支援サービスを活用し、社内の人材を育成する必要があります。 ノーコードプラットフォームの場合は、誰でも利用できるように設計されているので、望んでいることが実現できない、というケースがあります。とは言え、多くのノーコードプラットフォームは幅広いビジネスニーズに対応しているので、大概のことはできます。それを越えるような機能が必要な場合は、ツールの乗り換えやローコードプラットフォームの利用などが考えられます。

乱立を防ぐための開発運用のルール化

ローコードやノーコードで誰でも業務アプリを作成できるので、社内の統制が効いていないと、シャドーITと同じ問題が発生する可能性があります。機能が不十分であったり、セキュリティに脆弱性のあるアプリが続々と生まれ、そしてほとんど使われずゾンビ化するというケースも有りえます。ノーコード/ローコードプラットフォームを活用する場合は、社内で使える人を増やしつつも、アプリ作成にはルールを設けて統制することが必要になるかもしれません。

ベンダーロックインに対する配慮

特にノーコード/ローコードプラットフォームの大きな問題として言われているのがベンダーロックインです。ベンダーロックインとは、特定のベンダーに依存してシステムを構築するため、ベンダーの変更が難しく、多少の課題があっても強制的に使い続けなければならなくなる状態のことです。ライバルと比べてバージョンアップが遅いとか、利用料金を値上げされるといった問題や、サービス終了というリスクがあります。

サービスが終了しても、作成済みのアプリは使い続けることができることが多いのですが、それでも改修はできなくなってしまいます。メンテナンスできなくなれば、そのうち使えなくなるでしょう。また、クラウドサービスの場合は、アプリそのものも使えなくなります。

そのため基幹業務に関わるクリティカルなシステムは、従来通りスクラッチで開発するなど、ベンダーロックインに囚われないように全体の設計を考える必要はあるでしょう。この点は、プラットフォーム側も理解しており、標準的なプログラミング言語に合わせたソースコードを生成し、ベンダーロックインを回避できるようにしているローコードプラットフォームサービスも登場しています。

さらなる普及が予想されるノーコード/ローコードプラットフォーム

今後も、ノーコード/ローコードプラットフォーム市場は急拡大していき、様々なサービスが登場してきます。その中で、淘汰されるサービスも出てくるかもしれません。それでも、ノーコードプラットフォームもローコードプラットフォームもそれぞれの領域で機能を拡張しながら、シェアの獲得競争が進むでしょう。

ブームだからと飛びつき、思っているほど簡単ではなかった、と離脱する企業も一定数出るかもしれませんが、それでもこの流れは止りません。ノーコード/ローコードプラットフォームが普及することで、シチズン・デベロッパーが増え現場の業務効率が向上するだけではなく、SIerやITベンダーの業務効率も上がり、日本全体のDX化に大きく寄与することは間違いありません。

著者:ITライター柳谷智宣

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