ホームForesight JournalコラムDXは今どうなっている?  2025年の崖は避けられるのか?

DXは今どうなっている?  2025年の崖は避けられるのか?

#DX
経済産業省が「DXレポート」を公表し、「2025年の崖」について警告を発したのは、2018年9月でした。それから4年が経過し、2025年はもう目の前です。この間、DXは進んだのでしょうか?

レポートの公表後、多くの企業がDXに取り組み、ICTベンダーからも多くの支援策・ソリューションが提供されるようになりました。その中で、「一定の成果をあげている」「DXは完了した」と自己評価する企業もある一方で、「DX疲れ」「PoC貧乏」などの言葉も生み出され、思うような成果をあげられずに戸惑っている企業も目立つようです。そのような中、2022年5月に発表されたある会社が実施した調査が話題を呼びました。



DXに関する調査というと、経営層や情報処理部門、あるいはDX推進室といった「推進当事者」に対して行われることが多いのですが、この調査は非管理職や管理職などからまんべんなく意見を集めたもので、「働く側」「現場」の本音が反映されたものと言えます。
その結果は記事のタイトルにもあるとおり、DXに「絶対に関わりたくない(14%)」「できれば関わりたくない(21%)」「いわれたら仕方がない(25%)」「少しは興味がある(28%)」「ぜひ関わりたい(12%)」というもので、DXに消極的な意見が6割を占めたということです。推進当事者への調査では「ある程度の成果が上がっている」といった結果も多い中、現場との乖離が垣間見える結果となりました。

DXは経営課題なのか?

経産省のDXレポートでは、DXは経営課題であり、経営者自らが率先して取り組むべきと記されています。公表当時は官庁が民間企業の経営にまで踏み込むのか、という驚きを持って迎えられました。これは、このレポートが引いているDXの定義が米調査会社によるものであり、欧米流のトップダウンによる変革を念頭に置いていたからでしょう。しかし先の調査は、公表から4年を経て、そういった考え方が現場との乖離を生んでいるのではないかという懸念が出てきたことを示しているのではないでしょうか。

それと同時に明らかになってきたのは、DXとは何らかの目標を立ててそれを実現するための活動やそれによる成果ではなく、「日々の改善活動にデジタルを取り込む」という、極めて地道で継続的なものであるということです。言い換えれば、DXの本質は「不断の改善活動」であり、DXへの取り組みとは、それを継続するための組織や仕組み、マインドセットを作り上げることだと言えます。DXを推進するにあたって、欧米ではトップダウンで行われることも多く、そのほうが効率的と言えますが、日本企業(特に製造業)では「現場」が強く、トップダウンでの改革というのは馴染みません。つまり、日本においてDXとは経営課題ではなく、現場をうまく巻き込む必要があった、ということではないでしょうか。

しかし、ここに実は大きな問題が隠れていたのかも知れません。日本企業では現場が優秀だったが故に、DXを推進しづらい状況に陥ってしまっているのではないかということです。先の調査では、DXに対する否定的な理由のトップ3として「面倒くさい(235ポイント)」「大変そう(210ポイント)」「自分にできるか不安(176ポイント)」(n=1,000)が挙げられています。

「何を後ろ向きな」と思われるかも知れませんが、現場にとってみれば、これまで長い時間をかけて築き上げ、極限まで効率化し安定した業務プロセスを変えるのは、リスクにしか映りません。経営層に言われても、それを無理矢理変えることの意味もメリットもわかない、ということなのではないでしょうか。少なくとも、一時的に生産性が落ちることも覚悟しなければなりませんが、それを経営層が許容できるのか、そうまでしてでも取り組まなければならない問題なのか、経営層からのメッセージがわからない、という思いから、消極的な姿勢にならざるを得ないのかも知れません。その意味では、これは経営課題なのかも知れず、議論は堂々巡りを始めてしまいます。

現場のリスキリングが鍵

現場でのDX推進が難しいのは、それが「デジタル」という、これまで現場が関わってこなかった、つかみ所のない技術に大きく依存するからでしょう。これまで日本企業の改善活動を支えてきたのは、現場で実際に作業を行い、現場を知り抜いた方々でした。現場からのDXのためには、現場にデジタルの考え方を導入しなければならないわけですが、デジタルとなると未だに「よくわからないもの」という意識が現場には強いのかも知れません。一方で、現場のデジタルリテラシーを引き上げるための教育も、進んできたとは言いがたいものです。

デジタルで武装できていない現場からのDXは、難しいと言わざるを得ないのです。そこで、経産省が打ち出した新たな施策が「リスキリング(学び直し)」です。2022年10月3日の岸田首相の所信表明演説の中で、個人のリスキリングに対して公的支援を行って行く方針が示されました。その中の重点分野のひとつにDXが入っています。 実はこの政策には伏線がありました。約1年前の2021年10月に経産省が所管する情報処理推進機構(IPA)が公開した「DX白書」では、「デジタル時代の人材」について全体400ページのうちの1/4が割かれています。その中で、「全社員あるいは一部社員にリスキリングを行う考えの企業は、日本では24.0%、米国では72.1%だった」と、日米の人材育成に対する取り組みの違いについて、懸念を示しています。経産省はDX推進のための次の一手を早くから考えていたのです。

現場のデジタルリテラシーの向上がDXを可能にする

企業に限らず、日本のデジタル教育は進んでいません。家庭へのPCの普及は進まず、多くの人にとってスマホやクラウドは単なるブラックボックスと化し、「何が起きているのかわからないけれど、何故か便利」という存在になってしまってはいないでしょうか。

皆がプログラミングできる必要はありません。PCやスマホがどういった仕組みで動き、その裏にあるクラウドとの関係はどうなっているのか、といったことがわかれば、業務課題のどこにデジタルを使えそうか、という「発想」が生まれます。サービスを作るのは、外注でも最近流行のノーコードツールでもかまいません。現場の「発想」が「解決」に繋がり、「成果」が見えれば、良いサイクルが回り始めます。その先にこそ、日本型のDXがあるのではないでしょうか。

そして大事なことは、これまでの現場での改善と同じように、DXにはゴールが無いと言うことです。たゆまぬ努力、不断の取り組みがDXを推し進め、企業の構造改革を実現する道なのです。時間は限られていますが、遅すぎるということはありません。日本企業の現場は、大きな力を秘めているのですから。

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