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DXで具体化する「ソフトウェアの時代」とは

経済産業省がDXレポートで「2025年の崖」について、警鐘を鳴らしたのは2018年9月。もうすぐ5年が経過するとともに、問題の2025年まであと1年あまりとなりました。この間日本では、官民を挙げてDXの推進に取り組んできましたが、成果をあげている企業もある一方で、進め方に苦労している企業も多い様です。

ハードウェアではなく、サービスによる差別化へ

そのような中、DXの本質をサービス(=ソフトウェア)という観点から捉え直そうという考え方が注目されています。

日本が伝統的に強いとされている製造業においては、あたりまえのことですが「モノ(=ハードウェア)作り」を効率化し、安価で高品質な製品を生み出すことに企業努力が傾けられてきました。しかし、モノが溢れる時代になり、個人の嗜好も多様化した結果、消費者は「体験」を求めるようになっています。ハードウェアだけでなく「体験」という付加価値が求められるようになったことで、どのような体験を提供できるかが差別化の要となりました。

この流れは、世界のビジネスがデジタル化へ突き進み、デジタルネイティブな企業が大量に生まれた時代と重なっています。2000年代にクラウドサービスが始まり、スマホが台頭したことは、これと無関係ではありません。クラウドサービスはハードウェアを「所有」するものから「使う」ものへと変え、スマホはクラウドのパワーを背景に「使い勝手」や「体験」を提供するようになりました。その結果、消費者の目に触れるものは「サービス」となったのです。

これが、DXにおいてよく言われる「モノのサービス化」ということです。最近「XX as a Service(サービスとしてのXX)」という言葉をよく見かけるようになった背景には、こういった変化があるのです。そして、サービスを実現し、品質を決定するのがソフトウェアであることは、改めて言うまでも無い事でしょう。

DXの目的が、既存のアナログな企業がデジタルネイティブな企業に生まれかわることであるならば、これまでのハードウェアに重きを置いたビジネスモデルから、より良いサービスの提供へと舵を切ることこそが、DXの本質と言うこともできるでしょう。それはすなわち、時代の主役がハードウェアからソフトウェアに移ったことを意味します。

モノのサービス化とはどのようなものか

モノのサービス化とはどのようなことを指すのでしょうか? 自動車業界の例を見てみましょう。

EV化や自動運転の進化など、自動車業界は今、最も激しいDXへの波に晒されている業界です。その自動車業界では、各社がこぞってMaaS(Mobility as a Service)への取り組みを加速させています。

MaaSとは、これまでのように車というハードウェアを売るのではなく、移動手段をサービスとして提供するビジネスモデルのことです。トヨタ自動車は2018年のCES(世界最大の家電市)で「モビリティ・カンパニー」への変革を発表しました。車を作らなくなるわけではありませんが、収益は「車を使ったサービス」から得るということです。車はサブスクなどで「使いたいときに使う」ものになり、自宅から目的地までの移動手段をワンストップで提供するようなビジネスモデルに転換しようとしているのです。

トヨタが実験都市「ウーブン・シティ」構想を発表したのも、モビリティを越えて人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスを提供していこうという試みと言えるでしょう。

しかし、サービス化は良いことばかりではありません。サブスクは、顧客が不満を持てば中途で解約されてしまうかもしれず、それを防ぐ為には顧客満足度を高く維持しなければなりません。そのためには不断の努力によってサービスを向上させ続けなければならないのです。

ソフトウェアによるサービスの差別化とは

サービスの時代において顧客満足度を高く維持し、顧客をつなぎ止めるためには、サービスを向上させ続ける必要があります。そして、その鍵を握るのがソフトウェアです。サービスを実現し、提供するのはソフトウェアだからです。ソフトウェアはハードウェアと違い、変更を反映させるためのコストが低く、時間もかかりません。ソフトウェア(サービス)の高度化を如何に迅速に、定期的に行っていけるか、そのための体制を如何に作るかが鍵となります。それを実現するためのステップこそがDXであるとも言えるでしょう。

自動車業界におけるソフトウェアによる差別化の例として、テスラが挙げられます。テスラの強みはもちろんEVという先進性にありますが、新規参入が続くEV業界で差別化を図るために、自動運転などの最新技術を迅速に取り入れていくことに注力しています。そして、その基本はソフトウェアです。テスラが発売されたときには、自動運転のハードウェアは搭載されていましたが、自動運転機能は使えませんでした。その後自動運転が実用化された際に、後からオプションとして購入することでオンラインで自動運転機能をアクティベートすることができたのです。これはバッテリー容量やその他の機能でも同様で、顧客は必要になった時に必要なオプションのみを購入することができ、決済はオンラインで行い、支払いの瞬間からその機能を使うことができるようになります。テスラにとっても、多くの車種やオプションを用意して管理する必要がなく、コストを下げることができます。

「ソフトウェアが世界を呑み込む」

昔、「コンピュータ ソフト無ければ ただの箱」という言葉が流行りました。ソフトウェアの重要性を示す言葉ですが、ソフトウェアがハードウェアよりも軽視されていたことを示してもいます。もっとも、この逆(「ソフトウェア ハード無ければ 動かない」)もまた真実で、本来はどちらも不可欠ということなのですが、時代によってそのバランスが変わってきているということでしょう。そして今は、「ソフトウェアの時代」なのです。

この流れが本格的なものとなったのは、2011年にNetscape Communicationsの共同設立者であるAndreessen氏が米国の経済紙The Wall Street Journalに寄稿した「Why Software Is Eating The World(ソフトウェアが世界を呑み込みつつある理由)」という記事がきっかけでしょう。

この記事で氏は「映画から農業、国防まで、多くの主要なビジネスや産業がソフトウェアによって運営され、オンラインサービスとして提供されています。勝者の多くは、確立された業界構造を侵略して覆すシリコンバレー型の起業家精神にあふれたテクノロジー企業です。私は、今後10年間でさらに多くの業界がソフトウェアによって破壊されると予想しています。」と書いています。そしてこの予想は、今でも大きく間違っていないように思えます。

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