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AIが変える検索体験

ChatGPTがGoogleに与えた衝撃

いま話題沸騰中のChatGPTはもう体験されましたか? 「大嘘をまことしやかに書く」など、批判も少なくありませんが、全体としては適切な回答を自然な言葉で返してくれるという印象です。元々AIは発展途上の技術ですし、ChatGPTも試験的な公開という意味合いが強いと思いますので、あまり目くじらを立てずにその可能性を楽しみにする、というのが正しい考え方でしょう。別記事でも取り上げたように、ジェネレーティブAIはここ数年で急激な進化を遂げており、ChatGPTによってAIは明らかにそのフェーズを変えたと感じます。そして、元々は画像や文章などを生成する目的で開発されたジェネレーティブAIですが、思わぬ方向に影響を与えようとしています。それが、ネット検索の分野です。

ChatGPTが公開された直後の2022年12月中旬、米検索最大手Googleの幹部が社内へ向けて「コード・レッド」を宣言したことが報じられました。GoogleはChatGPT(およびその後継技術)がGoogleから検索ビジネスでの売上を奪うのではないかと考えたというのです。 なぜ、文章生成用のAIに「チャットもできる」機能を付け加えたChatGPTが、検索界の巨人Googleを恐れさせたのでしょうか? その大きな要因は、Googleのビジネスモデルにあります。Googleは一般的にはAI企業と考えられていますが、その収益の80%以上はネット広告からのもので、ビジネス的には広告代理店業といえるものです。特に、Google検索で得られる結果に広告を表示して、それがクリックされる度に広告収入を得られる検索連動型広告のシェアが抜きん出ています。

ChatGPTで検索が不要になる?

昨年来、ChatGPTを使った人々の多くが感じたのが「これで面倒な検索をしなくても良いかもしれない。」というものだったのです。実際、Googleの幹部はコード・レッドを発した理由について「ChatGPTによってグーグルの広告リンクをユーザーがクリックしなくなるかもしれない」というコメントを残しています。

ChatGPTに「xxについて教えて」と入力すると、その話題についてのネット上の情報を、箇条書きや自然な日本語で要約してくれます。そうすると、もう、検索エンジンを使ってあれこれとキーワードを試し、出てきたリストから有望そうなリンクを見つけてそのサイトに飛び、内容を読んで自分なりに要約して理解する、というプロセスが必要無くなるのです。さらに、その回答に対して「その○○についてもっと詳しく」などと入力すると、前の質問からの流れで回答を返してくれます。まさに、人間のアシスタントと会話しているような感覚を覚えるのです。

実際にChatGPTをしばらく使ってから通常の検索に戻ると、入力したキーワードを無視した結果が返ってきたり、欲しい情報にうまくたどり着けなかったりしてフラストレーションが溜まります。一度ChatGPTを経験してしまうと、元の検索に戻れなくなるのです。

早速動いたMicrosoft

そこに目を付けたのがMicrosoftです。MicrosoftはChatGPTの開発元であるOpenAIの設立直後から提携し、出資も行ってその技術をOfficeやAzureなどの自社サービスに組み込んできましたが、ChatGPTの一般公開から1ヶ月余りの2023年1月上旬、Microsoftの検索エンジンであるBingにGPTを組み込むという発表を行ったのです。さらに、その直後に今後数年間で最大数十億ドル規模の投資を行うと発表しました。まさにGoogleの「急所」を突いてきた形です。

ChatGPTが返してくる回答は、ネット上の情報を要約したものですが、その情報限が何かは表示されません。元ネタがわかれば、そのサイトに飛んで内容を確認するなどができるため、そのような機能を望む声が多かったのですが、Microsoftが計画しているGPTベースのBingは、まさにそのようなUIになると言われています。これが一般向けにリリースされると(2023年2月時点では限定的な公開)、BingがGoogleの検索シェアを一定程度奪う、ということが現実になるかも知れません。

Googleも黙ってはいない

とはいえ、AI技術ということで考えれば、Googleも世界最先端を行く企業です。ジェネレーティブAIの基本になっているTransformerという技術(GPTのTはTransformerの略です)はGoogleの研究者が開発したものであり、当然GoogleはジェネレーティブAIの分野でも最先端の技術を持っています。

Googleは検索にAIを使うことを躊躇ってきましたが、それはひとつにはGoogleの影響力が巨大すぎることが原因と言われています。先に書いたように、ここ数年で精度が飛躍的に上がったとはいえ、間違った答えを出すことも多い技術を、今すぐにGoogleのサービスに導入してしまうと、ユーザーに大混乱が生じてしまいます。ChatGPTは限定的な公開であり、使う人は実験段階であることを理解している(それでも結果に文句を言う人は居るわけですが)ことが前提ですし、ChatGPTのサイトにも結果を信頼しないようにという注意があります。

もうひとつの考えられる理由は、恐らくコストです。ChatGPTのベースとなっているGPT-3は3年前の技術とはいえ、パラメータ数が1,750億に達する大規模なAIモデルです。これを大量のユーザーに提供するためには莫大なリソースが必要です。実際に現在もChatGPTは混雑すると使えなくなることが多々ありますし、コストを回収するための有償サービスも開始しました。もし、Googleが正規のサービスとして提供したとすると、リソースの必要量は比較になりませんし、だからといって、検索を有償化するわけにもいかないでしょう。

現在、検索市場でGoogleが占める割合は90%以上と言われ、Bingは3%程度です。検索シェアを1%伸ばすと、広告収入が20億ドル(2,600億円)増えるとの試算もあり、Microsoftがコストを度外視してもシェアを取りに行くインセンティブは大きいと言えます。盤石と思われたGoogleの牙城が、自らが牽引したAI技術によって脅かされるという、なんとも皮肉な状況になっているのです。

とはいえ、検索体験に対するユーザーのニーズがこれだけ顕在化し、Microsoftも取り組み始めたとなると、Googleも対応せずにはいられません。実際、2月に会話型AIサービスの「Bard」を発表しました。これから、検索にどのようにAIを使っていくか、という競争が激化していくことでしょう。

長らく「キーワードの組み合わせ」というUIが当たり前だった検索技術において、初めてとも言えるパラダイムシフトが起きつつあるのです。どこの技術が最終的に残るにせよ、5年後の私たちの検索体験は、まったく違ったものになっていることでしょう。

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