ホームForesight Journalコラム巨大な経済圏を創出する革新的サービス「スーパーアプリ」とは

巨大な経済圏を創出する革新的サービス「スーパーアプリ」とは

iPhone 3Gが2008年に登場して15年。2010年は4%(※)だった日本国内のスマートフォンの所有率も2022年には94%(※)になりアプリも生活に欠かせないものになりました。iOSのApp Storeでは180万、AndroidのGoogle Playでは200万ものアプリが公開されているのです。チャットは「LINE」、決済は「Suica」、SNSは「Facebook」や「Instagram」、タクシー配車は「GO」などアプリは日常生活に浸透しています。
※出典:2022年一般向けモバイル動向調査

一方でユーザーはアプリをインストールするたびに、IDやパスワードを設定しなければならずアカウントの管理やアプリの更新管理は手間がかかります。

そんな中、注目を集め始めたのが「スーパーアプリ」です。スーパーアプリとは、1つのアプリ内で複数の機能やサービスを統合したアプリのことです。前述のチャットや決済、SNS、タクシー配車をはじめ、オンラインショッピング、フードデリバリーなど多数の機能をまとめて搭載しています。

ユーザーは複数のアプリをインストールすることなく、1つのアプリと1つのアカウントだけで、様々なサービスを受けられるのがメリットです。

今回は日本でも普及が予想されるスーパーアプリについてご紹介します。

日本以外のアジア圏ではすでに普及しつつあるスーパーアプリ

現在、スーパーアプリは主にアジアで人気が高まっています。「WeChat(微信)」や「Alipay(支付宝)」(中国)や「Grab」(東南アジア)「Gojek」(インドネシア)などが有名です。欧米ではなくアジアを中心に広がっているのがユニークです。

この理由は近年、急速に経済が豊かになった層が、PCではなくスマホを使っているためと言われています。また、一気にスーパーアプリが普及したアメリカが開発したアプリが中国で規制されていることも背景にあります。

スーパーアプリは統一されたデザインになっており、異なる機能やサービスを使っているにも関わらず迷わず操作できるようになっています。さらに、チャットからショッピングへの移動、予約から決済機能への切り替えに違和感がなく、コンテキストを維持できるので離脱によるコンバージョン低下を防ぐことにもつながります。

複数の機能を提供することで、スーパーアプリ内の滞在時間を増やすことができます。また、ユーザーの情報を継続して収集でき、より最適化されたサービスや広告を展開できます。なにより、ライバルとなるアプリに流れることも防止できます。

WeChatから見えるスーパーアプリの可能性

例えば、テンセントが提供する「WeChat」は中国でも最大のスーパーアプリです。2011年にローンチされ、2023年現在は約13億人が利用する、まさにスーパーなアプリです。ユーザー数だけで、日本の人口の10倍以上とは想像もできない規模です。

チャットやファイルのやり取り、無料音声通話といったコミュニケーション機能が中心にあるのですが、「WeChat Pay」というモバイル決済機能を搭載しており、日常的な決済に活用されています。個人間の送金も可能で、経産省の資料によると中国におけるキャッシュレス決済の比率は83%になっています。ちなみに、日本のキャッシュレス決済比率は32.5%で下位にとどまっています。

また、多数のオンラインストアと提携し「WeChat」内でショッピングすることもできます。もちろん「WeChat Pay」で決済も可能です。

さらには公共交通機関の時刻表や運賃の検索、航空券の予約、公共サービスの申請や病院の予約まで、日常生活のあらゆるニーズに対してひとつのアプリで対応できてしまうのです。

中小企業にもビジネスチャンスをもたらすスーパーアプリ

WeChatアプリの画面を見てみると「ミニプログラム」というタブが用意されています。「ミニプログラム」はいわば「WeChat」アプリ内にあるインストール不要のミニアプリです。

ミニプログラムにはありとあらゆるサービスが提供されており、TikTokのようなSNSからクーポンアプリ、各種予約アプリ、フードデリバリーアプリ、動画のキュレーションアプリもたくさんあります。あらゆる企業が競ってミニプログラムを提供する理由は13億人という莫大な数のWeChatユーザーに対してアプローチできるためです。

ミニプログラムの開発が簡単なことも企業側にとってはメリットのひとつです。スマホアプリの場合はiOSもしくはAndroidといったプラットフォームの選択を行う必要があり、多種多様な端末へ対応するための開発費用、メンテナンス等のランニングコストも負担になります。

その点、ミニプログラムはWeChatの機能を利用できるので、手軽に高度な機能を搭載できます。メンテナンスの負担も小さく、何より簡単に開発できるので開発費用も抑えることができます。

企業のDXにスーパーアプリを組み込んでいるところもたくさんあります。例えば、飲食店では注文と決済までできるようになっています。客側はオーダーを簡単に確実に行うことができ、飲食店側は従業員の手間を大きく減らせます。マクドナルドもミニプログラムを提供しているほどです。

ミニプログラムは通常のアプリに比べて容易に開発できるため、地方の中小企業でも莫大なユーザーに対してアプローチすることが可能になります。

スーパーアプリの課題

メリットが多いスーパーアプリですが、その規模の大きさ故に運用者側、ユーザー側共に課題もあります。

運用者側の課題

強豪との差別化が難しくなり競争が激しいのもスーパーアプリの課題のひとつです。スーパーアプリは市場を独占すれば期待される利益が非常に大きいですが「ありとあらゆるサービスをひとつのアプリ内で網羅する」というコンセプトは予算さえ確保できれば簡単に真似することができ、差別化が難しくなります。WeChatにもAlipayというライバルがおり、しのぎを削っています。

巨大なシステムなのでスーパーアプリの運営側も大きな利益を享受できますが、前例のない規模での運用リソースが必要です。

セキュリティやプライバシーへの配慮も必要です。現在は、広告のために個人情報を収集・利用されることに対してアレルギーを持つ人が増えています。過剰なターゲティング広告も辟易してしまいますよね。グローバルに展開するIT企業には各国で厳しい規制がかけられ罰則金も高額なためセキュリティ、プライバシー対応へ必要なリソースも大きいです。

ユーザー側の課題

ユーザー側としてはひとつのアプリ内での囲い込み、いわゆる「アプリロックイン」が起きます。もちろんすべてのサービスが良質なものであれば問題ないですが、他に選択肢がない場合、望まないサービスでも半強制的に使い続けなければなりません。

中小企業にとっては知名度の向上や販路拡大が期待できる一方で、利益の配分はスーパーアプリ側が決めるので公平性に欠けることもあります。 また、スーパーアプリがインフラレベルで普及した場合、使わない企業にとっては新規参入のハードルが上がり市場の健全な競争が阻害されてしまう可能性もあります。適切な収益と公平なビジネスモデルの確立が求められます。

日本でも実現の可能性が出てきたスーパーアプリ

今後は、スーパーアプリはAIやIoT、ブロックチェーンといった新技術を取り込み、サービスをさらに改善していくことでしょう。ありとあらゆることがスマホで完結するようになり、アプリ内の経済圏はさらに拡大していくことが予測されます。

日本でもスーパーアプリになりそうな候補が出てきています。皆さんも使っている「LINE」、「PayPay」、「Yahoo!JAPAN」です。各サービスの規模を踏まえると、これら3つのすべてがZホールディングス傘下にあることは驚異的です。2019年にYahoo! JAPANとLINEが経営統合されると発表された時は、各サービスが統合された日本では類を見ない画期的なアプリの登場を期待しました。しかし実際はLINEとPayPayが別々にスーパーアプリ化を目指しているようですが、まだ道半ばです。

一方、2020年にKDDIは「au WALLET アプリ」を「au PAY」へと名称変更し、あらゆる金融サービスを包括するスーパーアプリを目指すと発表しました。au PAYをプラットフォームとしてさまざまなサービスを提供するため、2023年現在も引き続きサービスの増強を続けており、今後の成長が期待されます。

アプリロックインされるという課題はあるものの、ユーザーにとっては便利な世界になるのなら歓迎したいところです。筆者としては1日でも早く日本のスーパーアプリが登場することを期待しています。

スーパーアプリがプラットフォームとして普及すれば、各企業もビジネスにおいて利用は必須となるでしょう。日本国内でのスーパーアプリの実現、市場成熟にはまだ時間がかかりそうですが、アプリ提供側の動きに注目し、参入の好機を逃さないことがこれからは重要になってくるでしょう。

著者:ITライター柳谷智宣

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