ホームForesight JournalコラムサブスクリプションがDX時代の標準的ビジネスモデルである理由 第2回

サブスクリプションがDX時代の標準的ビジネスモデルである理由 第2回

前回のコラムでは、ソフトウェアにおけるサブスクリプションが「永続的ライセンスの売切り+メンテナンスのモデル」から「初期費用無しのフルサポート」へ移行した経緯を振り返りました。今回はこの新しい課金モデルであるサブスクリプションが、デジタルトランスフォーメーション(DX)後のビジネスにどのように影響するのかを考えてみましょう。

まずは、前回のコラムの最後に書いた、「DXの時代には、あらゆるものがサービス化される」について解説します。巷では「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が溢れており、人によってその定義が違うという混乱した状況ですが、ここでは経産省が「2025年の崖」で参照したIDCの定義を使いましょう。即ち、「新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」ということです。ここで企業が目指すべきとされているのが、「顧客エクスペリエンス」の向上です。

Windows XPが「eXPerience」の略であることを覚えている方は少ないかも知れませんが、IT業界では20年以上前から顧客エクスペリエンスに着目した製品作りが行われてきました。AmazonやGoogleなどのデジタルネイティブな企業が生まれたのもこの前後です。2000年代に始まったクラウドサービスは「所有から利用へ」というパラダイムの変化を謳い、2007年に発売されたiPhoneが消費者の圧倒的支持を得たのも、iPhoneが提供する「顧客エクスペリエンス」が広く受け入れられたからです。
IT業界以外でも同じ時期に「モノからコトへ」という消費性向の変化が注目されました。モノ余りの時代に、消費者は物質的な満足よりも精神的な満足価値を見出すというものです。そして、ここ数年はその傾向がさらに強まっています。

このように、ITに始まったトレンドは一般社会にも拡がり、製品が持つ「機能」や「価値」「所有する喜び」よりも、「使って気持ち良い/使って嬉しい」「ストレスなく使える」ことが重要視されるようになっています。それが「モノだけではなく、それに付帯するサービスまでを含めて、トータルな体験を提供する」ということです。

そうなれば、顧客は「モノを買う」のではなく、「得られる体験/価値に対して対価を支払う」ことになります。それが、従量課金であり、サブスクリプションというわけです。従量課金はIaaSやPaaSなどのクラウドサービスの標準的な課金モデルとなっていますが、サブスクリプションはSaaSを中心に採用が進んでいます。

すべてのモノやサービスがサブスクリプションになることは無いでしょうが、さまざまな分野でサブスクリプションへの要求は強まるでしょう。なぜなら、このモデルはユーザーにとって大きなメリットがあるからです。その一方で、サービスを提供するベンダーにとっては大変です。サービスの乗り換えが容易になるため、提供するサービスの質が悪ければ、消費者はよりサービスの良い(より気持ち良く使える)サービスにどんどん乗り換えてしまいます。

そのため提供側は、「常に選んでもらえる」ように常にサービスを向上させ、顧客満足を高いままに維持しなければなりません。そのためには、ユーザーからのフィードバックをいち早く捉え、それをサービスに迅速に反映させて行く必要があります。要望が出る前に最新技術をいち早く取り入れていく必要もあるでしょう。そのサイクルに数ヶ月、数週間かかっているようでは、顧客は離れてしまいます。フィードバックの取得-企画立案-開発-デプロイというサイクルを数日・数時間のオーダーで回さなければなりません。提供側のベンダーは、息をつく暇も無いような状況に追い込まれます。
しかし考え方を変えると、これは組織改革の好機でもあります。そもそもDXとは、組織改革によってビジネススピードを高速化し、競争力を高めることではなかったでしょうか。つまり、サービス化によるサブスクリプションでの提供と組織のDXは、相互に補完し合う車の両輪と考えることもできるのです。DXによって、より良いサービスを低コストで提供できるようになれば、他社と差別化できます。そのサービスを多くのお客様に使って頂ければ、コストを増やさずに収益を飛躍的に伸ばすことも可能です。現在大手プラットフォーマーが巨額の利益をあげているのは、これを実践しているからです。

サブスクリプションとは顧客志向を突き詰めた結果の課金形態であり、同時に提供する側にとっても収益を拡大できるチャンスとなるのです。どちらにもメリットのある、Win-Winのビジネスモデルということができるのです。
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